物のやりとりの練習 太田ステージ StageⅠその③ ことば音楽療法 京都

発声・発語のレッスンについて先に投稿してしまいました。
発声・発語を促すことももちろん大切ですが、
「やりとり」「指さし」の練習も大切です。

 

物を渡したり、受け取ったり、といった「物のやりとり」は通常のコミュニケーションの構造と同じです。①
「ゆびさし」は、要求表現としての指さし、応答的な指さしなど言葉の代わりに発語前に見られます。「〇〇はなに?」と大人がたずね、応答的な指さしをするには、言葉の理解が必要です。

 

今回は、やりとりの練習の一つの例を紹介します。
やりとりの練習は、物の受け渡しをします。
子供たちは受け取ることはできますが、渡すことが苦手。
相手に視線を合わせることが苦手で物を渡すことがなかなかできません。
そこで、楽しく言葉歌を聴きながら、「物を受け取り、物を渡すこと」を覚えます。

 

まず先に物を受け取ることを教えます。
かごと玩具の果物(10種類ほど)を準備します。
子供たちは「物を入れる」行為が好きです。
歌いながら子供に果物を渡し、かごに入れさせます。
「りんごをもらう~」
「りんごを入れる~」
「全部入れました。」
「バンザイ!」と歌います。
言葉歌を歌いながらすることで、子供たちは自分の行為(受け取る)がわかりやすくなり、
達成感を感じ、「バンザイ」の時は喜びをその子供なりに表わします。

 

次に「相手に物を渡す」練習ですが、これもかごと玩具の果物を準備します。
子供たちは「物を入れる」行為が好きなので、その行為を利用します。
受け取りでやった役割を交替します。
子どもの前に果物を並べ、セラピストが空のかごを持ちます。
子どもに「かごに果物を入れたいです。果物をください。」と
手を出しながら子供に伝えます。
子どもは、自分でかごに果物を入れたいと表情や態度で示します。
しかし、かごと果物の間に「人」が入る事で自分で入れることができず、
困る様子をみせます。
果物をかごに入れてみたいという気持ちが子供の様子からうかがえられます。
その気持ちを消さないように、言葉歌を歌います。
「リンゴをもつ~」
「りんごをわたす~」
歌いながら、そっと子供の手に果物も持たせ、
その子供の手を持ちながらセラピストの手に果物を渡す。
言葉歌を聴きながら、その動作を体で覚えてもらいます。
言葉歌によって人を嫌がる気持ちを軽くさせます。
「リンゴをもつ~」
「りんごをわたす~」
「〇〇ちゃん、りんごありがとう」と感謝を伝え、
「りんごを入れる。」
そして、「全部入れました!」「バンザイ」
果物が全部入ったかごを子供に見せながら
「〇〇ちゃんが渡してくれたから、全部入れることができました」
「〇〇ちゃんありがとう!」「バンザイ!」と歌います。
この「ありがとう」と「バンザイ」の言葉歌ですが、7拍子のリズムで歌います。

 

言葉歌によって、やっている過程や自分の行為の確認、苦手の対処・克服、やり終えたことへの達成感、相手との交流など自然と楽しく子供自身に感じてもらい学んでもらいます。
言葉歌を用いた「物のやりとり」で、人とのコミュニケーションを楽しく学ぶことができます。

受け取るの練習
セラピストは、
「リンゴをもらう~」と歌いながら、こぐまちゃんにリンゴを渡し、
こぐまちゃんの入れる行為に合わせながら「リンゴを入れる」と歌い、
「全部入れました。こぐまちゃん、バンザイ!」と一緒にバンザイします。

渡すの練習
セラピストは
「こぐまちゃん、リンゴちょうだい~」とこぐまちゃんに手を出し
「りんごをわたす」と子供の渡す行為を歌い、
「こぐまちゃん、りんごありがとう。」と感謝を伝え、
「リンゴを入れます。」とかごに入れます。
「全部入れました。」
「こぐまちゃんが渡してくれたから、全部入れることができました」
「こぐまちゃんありがとう。バンザイ!」
と一緒にバンザイします。

太田ステージでは、
「StageⅠは『シンボル機能が認められない段階』で、感覚運動期にあたり、一般の子どもの発達の1歳半くらいまでの発達水準に相当する。『物に名前があることに気づいていない』段階である。」②
「StageⅠの発達課題では、物や人への認識を高めることと言語をはじめとするシンボル機能の芽生えを促すこと、および日常の範囲内での適応行動の獲得を主な目標としている。」③

 

太田ステージの「シンボル機能が認められない段階」「物に名前があることに気づいていない」段階の子どもは、人とのコミュニケーションが苦手で、それが課題です。
言葉歌を用いて、子供が楽しく苦手を克服し、できることが増えてゆき、自信がつき、さらに学びたいという気持ちが子供の中に育ってゆけるように願いながらレッスンをしています。

 

 

① ことばの発達入門1 p44参照
②③ 認知発達治療の実勢マニュアル 自閉症のStgage別発達課題p30